ゼムパーの被覆/様式からの考察
川向正人 著
A5判上製カバー装
本文296頁 挿図120点
被覆こそ建築である。
20世紀から21世紀へ、建築はどう変化したか。ヴォリュームの建築が被覆の建築へと変化したと、川向は看破した。20世紀はすべてヴォリュームで計測する殺伐とした時代であった。すなわち、建築ですら体積で測られ、体積だけを基準に判断され、乱造され、たたき売られた。しかし、体積の建築は人間を幸せにしない。今、人々は被覆の豊かさを求め始めた。著者は、その転換のルーツが、19世紀ドイツの建築家、ゼムパーにあることを突き止めた。従来の建築史観をくつがえす、全く新しい近現代建築史が出現した。
毛織商の家に生まれたゼムパーが、ギリシア遺跡の石に色が塗られていたことに驚き、非西欧の様々な民族の「小屋」が、素材を織るようにして作られていることにインスピレーションを得て、建築は被覆であり、一種の衣服であるとことを発見するのである。彼の言う被覆とは衣服同様、単なる表層ではなく、人間と宇宙とをつなぐ本質的構造であった。衣服のような、やわらかく豊かな建築が、今よみがえろうとしている。
(東京大学教授 隈 研吾)